認知症ケアの公式「話を否定しない」に隠された前提条件とは?

とある介護施設でのスタッフコラムを読んでいたら、認知症ケアのある対応が書いてあった。そのスタッフさんは中年太りだったが、認知症の症状がある利用者さんから「あら、あなた妊娠してるの?」と言われたそう。そこでそのスタッフさんは、研修で「認知症の相手の方の話を否定せず寄り添って聞く」と言われたことを思い出し、「はい、妊娠六カ月です」と答えた。、、、 いやいや!そこは普通に「違います、ただの中年太りなんです、、」と言えば「なんだ、そうだったの」と笑い話で終わるケースだよ、、。 単純に公式化すると、何でも当てはめてしまう弊害があるのだなあ。

確かに、太っている人に「妊娠ですか?」と聞くのは一般的ではないかもしれない。ただ、年齢が70~80台だとしてその年代のおばあさま達が、ストレートに聞いちゃうのはあり得る話。普通に見て普通の感覚で聞いた質問なら、認知症扱いせず普通に否定の返事をして良いのではないか、、と考えました。

ここで、公式を改めて読んでみます。「認知症の症状がある方」「話を否定せず寄り添って聞く」とありますが、確かにこの場合、公式には合っているのですね。ところが「あなた妊娠してるの?」→「(違う、、、けど、否定しちゃいけない!)ええ、妊娠6ヶ月です」と、つかなくても良い嘘をついてしまうことになりました。

では、否定せず寄り添って聞かなくてはいけない時は、どんな時か? 認知症で短期記憶障害あり、お昼を食べたのに 「まだお昼食べてないのよ」 →「何言ってるのよ、さっき食べたじゃない」 そこで収まればいいが、 「食べてないわよ!あんたご飯も出してくれないのかい」と怒りにつながるパターン.。この場合、【否定せず寄り添う】としたら、 「あら、ごめんねまだご飯できてないの。ちょっとお茶いれるから飲んで待っててね」→など、伝えながら夕飯までつないでいくケースが考えられます。

また、別のケースでは幻覚なども考えました。 「あそこ、蛇がいる、、」「何言ってるのよ、何もないじゃない」こういうケースも症状によっては出てきますね。この場合に否定せず寄り添うとしたら 「蛇がいるように見えるんですね。ちょっと見てきますね。、、いなかったけど、隠れそうな荷物片付けましたよ。私も一緒にいますからね。大丈夫ですよ」 と、声をかけるかなあ。、、、具体例を出してみると共通点が見えてきますね。例えば「認知症の症状で現実との齟齬がある状況」など。 こう考えてくると、「相手の話を否定せず寄り添って話を聞く」の公式に隠された前提が見えてきます。

まとめると、
・「認知症による短期記憶障害や見当識障害、幻聴・幻覚などの症状で」
・「ご本人発のコミュニケーションにおいて現実との乖離が生まれた場合において」
→ 「相手の話を否定せず〜」の公式が有効となる、と言えそうです。 明るい言い方で否定して収まる場合もあるので、追加条件として「否定することでその後のご本人の気分や言動がより否定的になる場合」も付け加えてもいいかもしれない。上記の前提条件が省略されていることに講師も生徒も気づいていない。意識されていないから、それ以外の状況でも当てはめてしまい、ちょっとズレた対応になってしまうのですね。

普通に勘違いする状態での質問なら、普通に答えればいい。 例えば40台の老け顔のスタッフがいたとして、 「あなた、50代?」 と聞かれて「そうです、50です」と嘘つく必要はないですよね。「あなた、50台?」「違います、まだぼく、40代ですよ〜」と明るく返せば 「あら、ごめんなさいね(笑)」 となって笑い合える一場面につながりそうです。

これ、認知症の研修に、いかせないだろうか?
例えば、まず最初のコラムの体験談を聞いてどう思うか?を意見交換する。そして、「 否定せず寄り添って聴く」の境目はどこにあるか?を考えてもらう。私がしたみたいに、 否定したらだめなパターンの例を出してもらうと、より実感として身につくのではないでしょうか。講義を耳から聞くだけの座学や、職場の愚痴で終わるグループワークより、よっぽど認知症ケアの本質について考えられると思うのですが。