「看取り医独庵 漆黒坂」をよむ

前回の記事で読んだ「医者がぼけた母親を介護する時」、この作者さんの別名義の時代劇シリーズ。江戸時代の医療の詳細と、時代劇のケレン味が描かれる。

(画像をクリックすると商品ページへ飛びます)

浅草で開業する独庵は江戸でも評判の医師、そして剣の腕もたつという設定。医者というよりも科学者のような振る舞いで、理由の分からない病気にも誠実に向き合っていく。ここは医療ミステリのような趣があり、謎の症状から病気が解明されていくプロセスがとても面白い。独庵の患者によりそっていく姿勢、医療に対しての考え方などは作家さんの考えが反映されていると感じる。これは「医者がぼけた母親を介護する時」を読んでいたから余計そう感じるのだと思う。このノンフィクションはだいぶ昔の作品だが、考えや姿勢は一貫している。

そして、江戸時代の病気の名称などは興味深かった。介護職として、病気の知識は全般的に必要なのだがこういう昔からの経緯を知るとより関心が増すような気がする。例えば、糖尿病は消渇(しょうかつ)、胃が乾燥するため水を飲んでも乾きが止まらず、食べても飢餓が続き、小便は白っぽく甘みがする、、、と江戸時代の本に書いてあると紹介される。麻疹を取り上げた回では、現在の新型コロナにおけるパンデミックを想起させる。最後には精神障害、妄想のような症状が登場し、介護職としてはこの第四話が心に残った。独庵も対処法や治す方法が分からないのだが、患者に寄り添い、関係を作ってその中でヒントを探していく、、、という対応方法は、きっと現在の精神科でも一緒だろうと考える。そうそう、あけっぴろげに本心や事情も話してしまう、というのも必要なことだと気づいた。

と、、真面目な本かと思われそうだが、各章の最後では悪党たちを独庵がバッタバッタと斬りまくる、、、。突然このシークエンスだけ、テレビの時代劇風になるのが面白い。医者の独庵のキャラクターなら、命の大切さを知っているのだから殺さずに懲らしめるだけにする気もするのだが、このシーンは何も考えず楽しめば良いのだろう。このぶっ飛び具合がクセになる。

シリーズが人気らしく、全3作出ているのだがこの本は2作目。いきなり2作目から読んでも楽しめる。小さな虫が起こす病の話など、現在の病気でいうと何になるのだろう?と疑問があったり、糖尿病の章の解決のメカニズムも、もっと知りたいと思ったり。誰か独庵シリーズの病気を解説しているブログがないだろうか。または解説本で作品に登場する病気を現在の視点で解説してほしい、、、。