デイサービスご利用のおばあさん、認知症の見当識障害のため「あたし何で来たんだっけ?どうやって帰るの?」と混乱されていた。声が大きい方で周囲もザワザワ。スタッフが声かけするも耳が遠いので余計に混乱。
そこで、私はダメ元でフロアにあったお手玉を渡してみた。すると「あら懐かしい、ちょっとやらして」とお手玉し始めた、最初は失敗していたが思い出したのか、そのうち次々と技を繰り出し拍手喝采。 たまたまあったお手玉がその方の経験にヒットし、しばらくその方が主役となる時間が生まれた。
ここまででなくとも、チラシを用意しておいて、一緒にチラシで作るゴミ箱作りを誘うと、黙々とたたんで下さる。 混乱したときや、「もう帰るよ」と、おっしゃった時に言葉で説得するのでは余計混乱しがち、反発が生まれがち。それよりも別の何かをきっかけにすることで、全く違うポジティブ雰囲気の場になることがある
何がきっかけになるか分からないので、職場では色んな小物やグッズを用意している。剣玉、そろばん、紙風船。大きいところでは、デイには卓球台にラケットもある。「認知症ケア」というけど、これらモノを媒介にその方の記憶や経験を引き出す、その時ケアしてるのは果たして介護職か、お手玉たち=「モノ」か。
介護職がやってることは、ヒットしそうなモノや作業、環境を用意すること。好きそうだなと思って用意したけど見向きもされない時もある。この年代の男性なら、、とメンコを用意したら、「やったことない」と言われたことも。逆に、経験したことない園芸作業にはまって水やりが日課になった方もいらっしゃったり。また、スポーツ新聞を買っていってテーブルにおいておくと、手持ち無沙汰な男性ご利用が自然と手にとって読んだりする場面も。 他の例としては、古道具屋で買った昔の教科書(自腹)、昔の俳優のブロマイド、地元のローカル線の本、ベーゴマ、編み物の道具、リリアン、ミシン、レコードなど、、、。
その方に何がヒットするか?精度を上げるためには、やっぱり介護職は近代史の知識が必須。 その時代の共有体験、例えば東京オリンピック、万博。その方が子ども時代にどんなおもちゃが流行ったか、どんな服を着ていたのか、どんな映画・音楽がはやっていたのか、風俗史、民俗史、芸能史の知識もあるとヒットする精度があがる。これは介護職の「引き出し」。歴史や風俗の知識もそうだし、実際にモノを調達して用意しておく。言葉通り引き出しには色んなモノが入ってる。
今の人にしたらガラクタにみえるものも、介護職にとっては仕事の武器みたいなもの。こういう仕掛けを準備して、トライアンドエラーしてる毎日ですね 、、、と。こういうことを無意識にやってるんだなあ!と書きながら気づきました。これは毎日の仕事で言語化できてなかった部分。この、モノや作業や環境を媒介にしてその方の興味・経験・能力を引き出すケア。これをなんと呼んだら良いだろう?言語化できたがネーミングまではいたらず。仕掛けケア?引き出しケア?良い呼び名があったら教えて下さい(笑) おわり。