インプロがひらく〈老い〉の創造性 くるる即興劇団の実践 園部友里恵著 を読む。気になった部分を抜き出し&コメント。これは専門書100冊チャレンジの三冊目です。
第一章
・著者の高齢者演劇に関する調査によるとシニア演劇の主体は健康な高齢者。
・サンフランシスコの演劇カンパニー「BATS Improv」バーバラ・スコットさん。高齢者対象のインプロWSを行っている。
・理解を確実にするため、ほんの少しだけゆっくり進めたり、多めに繰り返したりする。高齢者扱いされたくないという気持ちにも配慮する。
・「ゆっくり」と「繰り返し」。一回のクラス90分の中で扱うゲームは多くても2,3種類。同じゲームを小グループのメンバーを入れ替えながら何度も繰り返していく。
・身体の状態に常に注意を払う。
・バーバラさんのクラス。「疲れたら座ってもいい」という声かけしていないのに、参加者が自分の状態にあわせて参加の仕方を変えていた。すぐ座れる位置に椅子が配置。
・介護施設でのインプロ見学。・Mindy Cresonさん
インプロを用いた認知症メモリーケアの実践。「むかしむかし、、、」「毎日毎日、、、」「ところがある日、、、」その後に文章を付け加えて一つの物語を完成させるもの。つなげる順番は決まっていない。
・一文付け加えるたびに、最初のむかしむかしに戻って何度何度もも読み上げるのが特徴的。最後に「この物語の教訓は、、、」で終わる。次の物語にいくのではなく、今作った話を深める方向にいく。出てきた犬の名前は?どんな大きさ?目の色は?鳴き声は?海の色は?と五感を使った質問をする。
・何を言ってもアイデアとして受け入れられる。何も発言しない人もいる。
・ファシリテーターが、そこで生まれた物語をとても大切に扱っていると感じた。
・ミンディさんの、脳梗塞による半身不随と失語症の劇団員に対してのアドバイス。「彼を中心にすること」
第2章
・「インプロ体験を通じて、日常のコミュニケーションを振り返る」、が当初のインプロ講座の目的
・くるる即興劇団、稽古は月2回、一回90分~120分ほど地域の会議室や研修室にて。稽古の内容はカリキュラム決められておらず即興的に決める。年に2回、公演を行う。公演場所は稽古と同じ場所。上演時間も稽古と同じ平日昼間、90分~120分。
→こういうやり方もあるんだ!舞台に立つことをフラットに行ってみよう。
・当日まで役がふられていず、どんな物語かわからない。その日誰が出演するか自体分からない(!)当日体調不良で欠席したりしても大丈夫。、、、なるほど!!高齢者劇団に合ってる形式なのだ
・公演後のインタビュー調査で、自分が出すぎてうしろめたいという語りが出る。
→演劇公演を研究として、出演者・スタッフにインタビュー調査していくのどうだろう?
そこで何がどのように受容されていったか、を共有できると面白いのでは。
・席を円にして舞台と客席を分けず見せ合う。ルールから外れた人がいたら「新しいゲームが生まれた!」という。
・舞台上ではアイデアが出てこないのに、客席にいるとふってくる。
・一般にフリーシーンはハードルが高いが、高齢者インプロではそれが逆転する。ルールの理解が苦手なひとにとっては、ルールのあるゲームはハードルが高く、フリーシーンはむしろ取り組みやすくなる。
・稽古のウォーミングアップの進行役を劇団員にまかせる。今までやったこと、テレビで見たりしたことでもよい。条件は「みんなができそうなもの」。
・著者が妊娠・出産で欠席。ファシリテーターがいなくなった時、新たな関係性が生まれる。
・インプロでは、失敗が受容される。(まともにいかない・詰まったり・調子のはずれたことを言う人のほうが面白い)舞台にたつことを強要されない。関係の深さを問わず誰の隣にでも座ることができる
第3章
・ジブリッシュカード。小さな画用紙にでたらめにひらがなを書いてもらう。でたらめな言葉カードを持ち、セリフとして使って会話することで、シーンを作る練習をする。
→でたらめセリフを作るワークとして、できそう、、?ひらがなポーカーのカードがあるので、それを一枚ずつ引いてもらい、口に出す→カードに書く。進行役が話しかけるがその人はそのカードの言葉でしか話しちゃいけないルール。
・間違った発言から生まれたゲーム。両肩を上げて下げる時に「ストン」と言う。次に皆で息を揃えて「ストン」と言ってみる。
・骨折してるから出演「できない」→インプロでは骨折してるから「できる」シーンがある
・仮面演劇で「年寄りだからできるような動きがあった」
・仮面をつけて言葉がでなくなる状態はどこか老いと似ている面がある。1どんどん自由になる。2どんどん制約がふえていく。
第4章
・スポンテーニアスな状態:意識的に生み出すのではなく何かが自然に生まれてくること。
・ジョンストンの本「インプロ」。6歳の子どもに質問してアイデアを引き出したり、9歳の子どもとワンワード(複数名で少しずつことばを足して文をつないでいく)物語を共同で作り上げる様子が描かれる。→専門書認定。買おう。
・顔作りゲーム。人数分のA4用紙を配る。紙には直径10センチの円が一つ印刷されている。グループで順に線を足しながら、その顔を完成させていくというゲーム。変顔にする、誰が描いたか分からないようになる。
・脳梗塞の劇団員トシちゃんのエピソードの章。トシちゃんの言動が引き起こす笑いは、本人が意図しているのかわからないコミュニケーションのズレから生じる。これを笑っていいのか問題について考えさせられた。本人を傷つけてしまうのではないかという危惧。好意的な笑いとバカにする笑いとどう違うのか。
・稽古場に来れなくなった人のために自宅に訪問して出張稽古を行う。これすごくいいなあ。来れなくなったら終わりでなく、続けるための方策がある。これを思いつけるのがすごい。自宅で、奥さんが障害のある夫の役を演じて車椅子に座る。現実と虚構の境目がとけていく。オイボッケシの作品を思い出した。
・福笑い絵本で自由に顔を作る。その顔をまねするワーク。
第5章
・あらかじめできそうなゲームを選択することは、はたして良いことなのか。
・平日午前中という時間帯の設定で高齢者、しかも70代後半から80代の方が申し込んだ。→「平日昼間」は何かこういう場のニーズがあるんじゃないか。デイサービスではなく。
・「できない」状態であっても関われる学習コミュニティを作りたい
・認知症予防の活動は、できない人の不安をより煽るのではないか。
・呆けへの抵抗に違和感を感じる著者。だが「呆けの面白さ・豊かさがあるから呆けてもいいじゃないですか」というのは何か違うと感じている。高齢者同士の関係ならいいが、そうではない自分(筆者)がいうのは無責任だという。
・インプロを学ぶ時だけでも「迷惑をかけあえる」関係や、自分が「迷惑」だと思っていることが「迷惑でなくなる」コミュニティにしたい。
・呆けがもたらす表現も、呆けへの抵抗も、どちらも高齢者だからこそできる表現。
・「できない」と思っていた人も、自身の問いかけ次第で「できるひと」にもなりうる
・とっぴな答えを一つのアイデアとして受容する。
→その場にそぐわない言葉が出て困った時、「それ、いいアイデアですねえ!」とまず言ってみる。その後どうつなぐかは、、、それこそ即興(笑)
・この本の結論:インプロは高齢者の老いのイメージを「一部」ポジティブに変容させる。
・インプロが支配―被支配の関係にならない理由の一つが「その場限りである」こと。継続して上達していくを実感・確認できる機会もないことが、高齢者にとって上手い下手などの上下関係などにならない、フラットな関係を生み出せる。
・コロナで生まれたハガキで即興!ハガキにお題を書き、それに答えを書いてもらい、お便りとして共有するというもの。
→お便り出したら、読まれることって嬉しいんじゃないか。疑似ラジオをやるとか。高齢者の方で、聞けるラジオの方法ってどんなのがあるかな。
・老いを迷惑をかけることと思う祖母に「迷惑と思うかもしれないけれど関われるから楽しさが生まれる」→そうだよね、迷惑かける状況じゃないと「関わり」まで至らない。
→本全体で、認知症という言葉ではなく呆け、を使っている。三好春樹さんの考え方を用いているのだろうか。
→失敗することが捉え方によって価値をもったりすること。「注文をまちがえる料理店」のプロジェクトとも通じる。 →研究の事業なので、インプロで活動を行うだけでなく、インタビュー調査が行われ、その聞き書きも載せられている。単なるワークではなく、聞き書きがあることが重要なポイントだと思う。実際に参加してる方々の内面やゆらぎは、ワークショップ後の簡単なアンケートではすくい